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偶像の黄昏 反キリスト者 [哲学 ニーチェ]


ニーチェ全集〈14〉偶像の黄昏 反キリスト者 (ちくま学芸文庫)

ニーチェ全集〈14〉偶像の黄昏 反キリスト者 (ちくま学芸文庫)

  • 作者: フリードリッヒ ニーチェ
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1994/03
  • メディア: 文庫



ニーチェ全集14巻を読み終わった。この巻は『偶像の黄昏』『反キリスト者』『ヴァーグナーの場合』『ニーチェ対ヴァーグナー』の全4作品と附録がついている。

『偶像の黄昏』
基本的には、キリスト教・既存の道徳に対する批判。反時代的人間(私の我慢ならないものども)として、ルソー、シラー、カント、ユゴーなどが挙げられている。私の結構好きな作家・思想家達ばかりだ。

P48
教会はあらゆる意味での切除でもって激情と戦う。その施術、その「治療」は去勢である。~中略~協会はいつの時代でも戒律の力点を(官能性の、矜持の、支配欲の、所有欲の、復讐欲の)根絶に置いてきた。―しかし激情の根を攻撃するとは、生の根を攻撃することにほかならない。すなわち、教会の実践は生に敵対的である。

この官能性や支配欲、所有欲、復讐欲といったものがニーチェの賛美するディオニソス的なものなのであろう。こうしたものを根絶するのは人間の生にとってマイナスなのであろう。しかしニーチェがほかの著作で語っていた通り、これらをコントロールしていくことが重要なのだろうと思う。

P67~68
おのれの本質をなんらかの目的のうちへと転がし入れようと欲することは、不条理である。「目的」という概念を捏造したのは私たちであって、実在性のうちでは目的は欠けている・・・人は必然的であり、一片の宿業であり、全体に属しており、全体のうちで存在している。~中略~しかるに全体以外には何ものもないのだ。―誰ひとりとしてもはや責任を負わされないということ~中略~このことではじめて生成の無垢が再興されたのである。

この著書の中で示されている「生成の無垢」という概念が私にはわからない。個々人に責任が負わされないとしたら、そして全体を統合している神もいないのだとしたら誰が責任を負うのか。そもそも責任という概念自体が虚構なのか。わからない。やはりニーチェは難しい。そしてこの難しさこそが、解釈の多様性こそが、ニーチェが悪用される原因なのだろう。

『反キリスト者』
いままでのキリスト教批判とほぼ同じ。正直同じことを繰り返しているだけなので、飽きてくる。以下の箇所で、言葉をわかりやすく定義していたのでそこだけ紹介したい。

p166
善とは何か?―権力の感情を、権力への意思を、権力自身を人間において高めるすべてのもの。
劣悪とは何か?―弱さから由来する全てのもの。
幸福とは何か?―権力が生長するということの、抵抗が超克されるということの感情。満足ではなくて、より以上の権力。総じて平和ではなくて、戦い。徳ではなくて有用性。
弱者や出来そこないどもは徹底的に没役すべきである。これすなわち、私たちの人間愛の第一命題。
~中略~
何らかの背徳にもまして有害なものは何か?―すべての出来そこないや弱者どもへの同情を実行すること―キリスト教。

まあ、とにかくキリスト教は弱者のルサンチマンの結果現れた宗教であり、没落すべきものということなのだろう。個人的には、一人ひとりが強くなるとともに、キリスト教的人間愛をも持つことが「超人」だと考えるのだが。ニーチェに言わせると、結局キリスト教的人間愛が広がると一人ひとりが弱くなるということなのだろうか。

『ヴァーグナーの場合』
ヴァーグナー支持者だったニーチェが反対者になったその理由が分かるかと思ったが、やはりはっきりとはわからなかった。ニーチェにとって、ヴァーグナーは、いままでの(キリスト教的)道徳を突き破るような作品を作っていると思っていたが、実はそうではなかったということなのか。確かにジークフリート、ブリュンヒルデなどは半道徳的な行動を取っているが、結局はキリスト教的救済に導かれてしまうということなのだろう。

p.293
彼(ヴァーグナー)の歌劇は救済の歌劇にほかならない。男であるときもあれば、女であるときもあるが、ヴァーグナーにあっては誰かがつねに救済されていようとする。

ヴァーグナー歌劇の対象としてビゼーの「カルメン」が取り上げられており、それが素晴らしいところは、ドン・ホセが最後の場面で次のように言うところらしい。
「私が彼女を殺した。私が―私の最愛のカルメンを」
いわゆる、自分に責任を向けているというところが素晴らしいのだろう。そうなると、『偶像の黄昏』で出てきた「誰も個人に責任は帰せられない」という「永劫回帰思想」とどのようにつながるのだろう。わからない。

長い割に得るところの少ない本であった。

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