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銀のくじゃく [文学 日本 安房直子]


銀のくじゃく (偕成社文庫)

銀のくじゃく (偕成社文庫)

  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2017/01/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



偕成社文庫から出ている、安房直子の童話集をすべて読み終わった。

1.銀のくじゃく
2.緑の蝶
3.熊の火
4.秋の風鈴
5.火影の夢
6.あざみ野
7.青い糸

2は比較的短い作品で、イマイチよくわからない作品。安房直子作品としてはもう一歩な感じか。
他の作品は、短編ではあるが、全体的に若干長めの作品。
1は、本のタイトルにもなっているだけありかなり面白い。
真面目で腕の良い若い機織り職人の話。あるお客にお願いされ、森で「緑のくじゃく」を織り込んだ旗を作って欲しいと頼まれる。数日一心不乱にそれを作っていると、頼んだ人とは別の人が仕事場にやってきて、「銀のくじゃく」の旗が欲しいと言われる。元々頼んだ人は「緑」以外で絶対に織ってはいけない、と頼んでいたのでかなり悩んでしまう。悩んだ末、どちらにもわからないように、表は緑、裏は銀で旗を編み上げる。そのうちに、その若い機織りは・・・
ひとつのことに熱中することで、その物自体と一体化してしまう、決してないのだが、ないとは言い切れない情景を描いた、非常に幻想的で美しい作品。

3、4も傑作。3は、『安房直子コレクション5」で既読だったが、やはり面白かった。山で遭難した男が、熊と結婚し子供までもうけるのだが、ふとしたことで人間の世界に戻ってしまう話。熊として、理想郷のような世界で生きるのか、少し辛いことがあっても人間として生きるのか、読む人にそのようなことを問うている作品とも言える。

4は、『夢の果て』で既読。こちらも美しい作品。「風鈴がうるさい」と差出人不明の手紙が来るのだが、不気味に思っていたが、結局はそれは野に咲くコスモスだったという話。人間的視点ではなく、自然的視点で世界を捉えている点で非常に優れた作品と言える。

5は、超傑作。ストーブに閉じ込められてしまった異国の少女を中心に、優しい心を持つことなく生きてきたおじいさんが、このストーブ・少女との出会いから、優しい心を取り戻し、かの世界で生きていく話。ディケンズの『クリスマス・キャロル』にも通じる世界観をもった本当に素晴らしい話だ。

6も怖いが考えさせられる話。獣の皮を売って生きる男が、井戸の精に呼び止められ、そのことによって、自分が今まで売ってきた皮の動物たちと対面せざるを得なくなり、革を売る商売をやめる話。怖い話なのだが、優しさに満ちているのはなぜなのだろう・・・。

7も、超傑作。孤児の女の子が、自分の中で作り上げた恋人にマフラーを編んでいるうちに、鳥になってしまい、数十年後、同じ場所に来た若い男も、鳥になった彼女に連れられ一緒に鳥になってしまう話。「盗み」「母の再婚」「親しいものの死」など非常に暗いテーマばかりが取り上げられている作品なのに、希望と暖かさに満ちているのはなぜなのだろうか。

安房直子は本当に天才だと思わせる素晴らしい作品集だ。
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