ある雪の夜のはなし [文学 日本 安房直子 あ行]
非常に幻想的で美しい始まり。安房直子作品の中でも出色の書き出しなのではないだろうか。
p.178
「雪の野原に、夕日がしずみました。
遠い地平線は、ほのかなばら色から、うすむらさきに変わり、モミの木の真上に、星がひとつ光りました。星は、ふるえるようにまたたきながら、みわたすかぎりの白い野原を、じっと見おろしていました。」
一面の誰もいない雪景色の中を、一台のトラックが通っていく。トラックの幌の中からりんごがひとつころがり落ちる。
落ちたりんごが一人でいるのを寂しがっていると、どこかから声が。
その声の主はお星さまだった。
りんごはお星さまに自分の身の上話をする。
りんごは丘の上の一軒家の大きなりんごの木のりんごだった。ここに住む一家は貧しかったため、りんごの木を、ある果樹園に安く買い叩かれてしまう。豊作だろうが不作だろうが毎年同じ値段しか払ってもらえず、木に出来ているものは絶対にとってはならないと言われてしまう。
木にできているりんごたちは、この家に住む貧しい子どもたちがかわいそうに思い
「風さん、風さん、ゆすってちょうだい
風さん、風さん、おとしてちょうだい
落ちたりんごは、だれのもの」
と歌い、風に木からりんごを落としてもらい、落ちたりんごを子どもたちに食べてもらう。
しかし、熟しておらず、最後まで落ちることができず、果樹園のトラックに積み込まれたのがこのりんご。結局トラックからも落ちてしまい、誰にも食べられることなく腐ってしまうのを嘆いて眠ってしまう。
優しい声で目覚めるとそこには一人の少年が立っている。その少年は人間に姿を変えたお星さまだった。少年にたべてもらったりんご。残った種と少年は、一緒に空へと歩いていく。
とても幻想的で優しく素敵な話。
2022-08-09 10:00
nice!(0)
コメント(0)
コメント 0