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ある雪の夜のはなし [文学 日本 安房直子 あ行]


夢の果て: 安房直子十七の物語

夢の果て: 安房直子十七の物語

  • 出版社/メーカー: 瑞雲舎
  • 発売日: 2005/12/10
  • メディア: 単行本



非常に幻想的で美しい始まり。安房直子作品の中でも出色の書き出しなのではないだろうか。

p.178
「雪の野原に、夕日がしずみました。
 遠い地平線は、ほのかなばら色から、うすむらさきに変わり、モミの木の真上に、星がひとつ光りました。星は、ふるえるようにまたたきながら、みわたすかぎりの白い野原を、じっと見おろしていました。」

一面の誰もいない雪景色の中を、一台のトラックが通っていく。トラックの幌の中からりんごがひとつころがり落ちる。

落ちたりんごが一人でいるのを寂しがっていると、どこかから声が。
その声の主はお星さまだった。

りんごはお星さまに自分の身の上話をする。

りんごは丘の上の一軒家の大きなりんごの木のりんごだった。ここに住む一家は貧しかったため、りんごの木を、ある果樹園に安く買い叩かれてしまう。豊作だろうが不作だろうが毎年同じ値段しか払ってもらえず、木に出来ているものは絶対にとってはならないと言われてしまう。

木にできているりんごたちは、この家に住む貧しい子どもたちがかわいそうに思い

「風さん、風さん、ゆすってちょうだい
 風さん、風さん、おとしてちょうだい
 落ちたりんごは、だれのもの」

と歌い、風に木からりんごを落としてもらい、落ちたりんごを子どもたちに食べてもらう。
しかし、熟しておらず、最後まで落ちることができず、果樹園のトラックに積み込まれたのがこのりんご。結局トラックからも落ちてしまい、誰にも食べられることなく腐ってしまうのを嘆いて眠ってしまう。

優しい声で目覚めるとそこには一人の少年が立っている。その少年は人間に姿を変えたお星さまだった。少年にたべてもらったりんご。残った種と少年は、一緒に空へと歩いていく。

とても幻想的で優しく素敵な話。
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