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最果てアーケード 長編⑮ [文学 日本 小川洋子 長編]


最果てアーケード (講談社文庫)

最果てアーケード (講談社文庫)

  • 作者: 小川洋子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/06/12
  • メディア: Kindle版



ある町にあるアーケードの大家さんの娘が主人公。彼女が16歳の時、町の半分が焼ける大火事があり、その時父親は死んでしまったらしい。アーケードも焼けてしまったらしいが、すぐに町全体とともに再建され今も彼女はそこに住んでいるらしい。

そのアーケードの中にある、いろいろなお店のエピソードを綴った作品。これも一続きの長編の形はしているが、短編集の趣が強い。小川洋子さんの作品はこういう短編があるテーマで結びついた長編の形をしたものが多い気がする。

1.衣装係さん
レースを専門に売るお店に来る、劇場の衣装係をしていた女性の話。彼女はよくこのお店で買い物をし、それを主人公が彼女の家まで届け、そこで簡単なお話をするうちに、彼女のいろいろな過去が分かっていくという話。最後衣装係の女性は死んでしまい、それを発見するのが主人公なのだが、何故か悲劇めいた感じはない。

2.百科事典少女
このアーケードには何故か、図書室のようなところがあり、アーケード内で買い物をした人は誰でも利用できるものらしい。主人公の友人で、買い物はしていないのだけれどよくこの図書館を利用する女の子(Rちゃん)がいて、彼女はよく百科事典を開いていた。最後の「ん」の項を見るのを楽しみにしていたが、内蔵の病気に罹って死んでしまう。その後この子の父親がやってきて、百科事典を「あ」の項から一つ一つノートに書き写していく。女の子が楽しみにしていた「ん」の項にある。「んごま」という南アフリカの太鼓の項を書きおわると、その人は姿を見せなくなる。

3.兎夫人
義眼屋にやってくる、夫人の話。彼女は「ラビト」という兎?の義眼を作りたいとやってくるのだが、いつも買わずにおしゃべりだけして帰っていく。しかも店主の青年が、実際作るのであれば実物の兎が見たいので連れてきてくれといっても、連れてこない。
ある日、義眼屋の青年は結婚のため店をお休みする。その日に夫人がやってきてしばらく店の前で佇んでいる。その後彼女はやってこない。

後日談が何とも印象的・・・
「ラビトというあだ名の男の子が、Rちゃんと同じ病院で、同じ頃死んだ、という話を紳士おじさんから聞いたのは、兎夫人が姿を消したあと、随分経った時分のことだった。

4.輪っか屋
ドーナツ屋にやってくる、元体操オリンピック選手を名乗る女性の話。彼女はドーナツを買って、店主とおしゃべりをして帰っていく。二人は婚約する。しかし、図書室に置いてある百科事典のセールスマンとの会話をきっかけに、この女性が元オリンピック選手を騙りドーナツ屋を騙していたことがわかる。そしてこの女性はアーケードから姿を消す。のちのち、彼女は結婚詐欺で刑務所に入っていたらしいという噂を聞く。その彼女が再びこの界隈に姿を見せているらしいという噂が流れ、偶然主人公の女の子は彼女と出くわす。そこで、ドーナツの形の体操技を見せてくれと、頼むと彼女はやってくれる。それ以来彼女はアーケードのそばをうろつくことはなく、ドーナツ屋も静かに営業を続けている。

5.紙店シスター
レターセットや万年筆を売るお店の話。レース屋をしている男性とは姉と弟の関係。お客さんが買った絵葉書から、主人公の絵葉書の思い出が回想される。

主人公の女の子は、病気だった母親のお見舞いに病院へ行っていた。そこで知り合った雑用係さん。彼は一人でひっそりと暮らしていた。彼は郵便の仕分けなどもしていて、その仕分けをしているところに立ち会ったことがあった。雑用係さんにも一通、お姉さんからの手紙が来ていたが、よくよく聞くと、天涯孤独の身の雑用係さんが、自分で自分に宛てた手紙だということがわかる。主人公の女の子は文字も書けないのに、「私、お家に帰ったら、おじいさんに葉書を書く」と言ってしまう。しかしその後すぐに母親は死に、その雑用係さんに手紙を書く事もなく、会うこともなかった。

6.ノブさん
ドアノブ専門店の話。その店には、様々なドアノブがある中、雄ライオン彫刻付きのドアノブ&ドアがあり、そのドアを開けると、小さな空間がある。主人公は、安らぎを得られる場所としてそこに入りこむ。これも小川洋子さんが、テーマの話だと思う。外から隔絶された、静かな安らぎを得られる自分だけの小さな小さな空間。私はこうしたものにかなり共感を覚えてしまう。

7.勲章店の未亡人
勲章、いわゆるトロフィーとかメダル?、のお店の話。表彰式が好きだった店主の男性が死んでしまい、それを引き継ぐ形でやっている未亡人。彼女は勲章の買取はやっていないのだが、なぜだか皆色々持ってくる。ある日、ある詩人の息子が、「親父の形見」といって八角形の勲章を持ってくる。
主人公の女の子は、その詩人の本を借りに、久しぶりに町の図書館へ行く。紙ベースの貸出カードを出すと、古いから使えないと言われ、新式のプラスチック製のカードに変えられてしまう。この最後のやりとりが何ともノスタルジックで美しい。

8.遺髪レース
1で出てきたレース屋にまつわる、死んだ人の髪を用いてレースを編み思い出の品にするという話。この遺髪専門のレース編みと主人公の女の子の触れ合いを描いた作品。

9.人さらいの時計
アーケードの中央にある時計の話。この時計が動くところを見るとさらわれてしまうという伝説があり、皆恐れている。そこから話は転じ、主人公の女の子はいつからか、買い物客のあとをつけるという謎の行動を行うようになる。ヴァイオリンを持った大学の社会学部の助手のあとを付けた時の話。物語に、そのヴァイオリンが絶妙な役割を果たす。若干幻想的な話で、いろいろな要素が混じったストーリーになっている。

10. フォークダンス発表会
最後に16歳の時に起こった火事について語られる。自分の優しさが悲劇を生み出してしまったのではないかと苦しむ主人公の女の子の気持ちが淡々と語られる。様々な登場人物が最後に登場する。

最終章の緊張感と何とも言えない世界観が素晴らしい。最後の章を読むと、もう一度初めから読みたくなる作品。それくらい最後の章はインパクトがある。

ここに登場する人たちは、主人公含めあまり性別がわからない人が多い。話し方も含めすごく中性的な感じで、彼・彼女という代名詞がなければほとんどわからない。これも時代を反映しているのか・・・。
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