SSブログ

さらば、おやじどの 上・下 [文学 日本 児童書]


さらば、おやじどの〈上〉 (新潮文庫)

さらば、おやじどの〈上〉 (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2023/01/26
  • メディア: 文庫



さらば、おやじどの〈下〉 (新潮文庫)

さらば、おやじどの〈下〉 (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2023/01/26
  • メディア: 文庫



上野瞭の長編小説、『さらば、おやじどの』を読み終わった。
最初の場面が、いきなり集団いびり、いじめ、のような描写に始まり、素っ裸で町中を走り回ったことで、お牢に入れられ、そこで出会った人々に影響され、牢を出た後、無実の罪で投獄された人の脱獄を友人たちと成功させる。

これは、若者の成長物語であり、思春期で出会うもうひとりの自分との出会いの物語であり、親と子の葛藤の物語であり、権力者による平民に対するひどい扱いの物語であり、とにかく様々な要素の混じりあった物語となっている。さむらいである主人公と町娘の恋模様も少し混じっている。ドキドキする要素と読み進めるのも苦しくなるような社会や人間の暗部も描かれている要素もあり、とにかく楽しめる。

法を守ることだけが正しいのか、国家のために国家の道具となって人々に厳しくすることだけが正しいのか、本当の正しさとは何なのか、そして罪など犯さないと思っているが、誰でも罪を犯す可能性があるのではないか、等いろいろなことを読者につきつけてくる物語だ。

上巻
p.53
「刀や槍をふりまわすのは、わしらだけでいい。親のやったことを子どもがくりかえすことはない。佐平次。刀は人をあやめるが、学問はいくらやっても人の血を流すことはない。」

p.244
「おまえだけが違うなんて思うんじゃないよ。だれだってみんなと違っているんだ。」


下巻
p.111
「常日頃、くすんでいる男でも、会議となると生き生きしてくることがある。~中略~大勢のものが集まって、それぞれにもっともらしいことをいう。その一つ一つは、確かに正しくて、反対をする理由はなにもないのだけれど、それが、おれにはいやなのだなあ。ひょっとしてそれは、みんながみんな、正しいことをいいすぎるために、うんざりするのかもしれないな。」

pp. 163~164
「それより新吾。おまえはじぶんのやっていることを、いつも正しいと思っているか」
~中略~
「御法を守っているかどうかということですか」
「いや、それも確かに一つの正しさだが、わしのいっていることはもうすこし違う」
~中略~
「~中略~しかし、御法に関わりのない正義というものはないのかな。いや、正義という言葉がよくないな。こういう言葉は、人を狭い考えのなかに閉じ込める気がする。正義ではなくて、じぶんが納得することとといいかえてみたらどうだろう。」

pp.252~253
「考えられないことといいましたが、それは嘘でした。考えられないことではなくて、そうしたことは、ほんとうは、考えられることでした。そうです。考えれば考えられることなのに、わたしは、考えようとしなかったのです。考えたくなかったのです。人を、善と悪の二つにわけることほど、気の休まるものはありません。そう思い込んでおけば、何事を割り切れます。この世のなかは、割り切って生きる方が、ずっと過ごしやすい。また、うまく暮らしていけるのです。」

p.295
「わたしは直接、刀をふるわなかったが、仲間の隊士たちの殺戮をただ眺めていたことによって、(いや、それにただ目をそむけていたことによって)わたしもまた、殺戮に手をかしたのとおなじだったのだ。
 何でもない、ごくふつうの人間が、時と場合によっては、想像もつかないような残虐な行動にでることを、わたしは、おそれとおののにのうちに知ったのである。」

p.353
「あなたも、大きくなったなら、じぶんの志とやらいうもののために、肩ひじを張るようになるのじゃないでしょうか。~中略~野心のあるおさむらい衆は、みんなそうですね。あたくしは、はっきり申して、そういう生き方がきらいなのです。」

上野瞭の社会の暗部に目を向け、弱者に優しい目を向ける物語が大好きだ。
nice!(0)  コメント(0)