ひげよ、さらば 上 [文学 日本 児童書]
上野瞭の代表作と言われる作品。NHKが人形劇化した作品でもあり、結構よく見られたらしい。
上野瞭の作品は、昨年から結構読んできており、この『ひげよ、さらば』は有名なので最後にとっておいた。彼の江戸時代に舞台を移した「ちょんまげもの」シリーズは、時代設定が変わっていても、描かれている人間の本質的な部分は変わっておらず、結構すぐにその世界に入って行けてハラハラしながらどんどん読めていたのだが、この作品は結構辛かった。
登場するのがぜんぶ猫を中心とした動物で、出てくる動物たちの紹介が結構多くを占めており、はじめは読み進めるのがかなり辛かった。
しかし途中、主人公のヨゴロウザと片目が、バラバラの猫たちを一つの場所に集め、犬に対抗するためにはどうしたらよいかということを話し合い、最終的にヨゴロウザと片目で犬たちの縄張りに偵察に行こうと決まったあたりから、物語が動き出し、ヨゴロウザと犬たちとの争いの場面はかなり手に汗握る感じで面白かった。後半、猫や犬たちの心理描写もかなり面白くなってきており、物語が内面的にも外面的にも充実してきた感じだ。
この作者、「自分を客観的に見る」ということをテーマにしているのか、迷う自分と、それにアドヴァイスをするために語りかける「メタな自分」を多くの作品で登場させており、この作品でもヨゴロウザがその「メタな自分」と自己内対話をするあたりが面白い。
下巻がかなり楽しみな作品である。