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クラテュロス [哲学 プラトン]


プラトン全集〈2〉 (1974年)

プラトン全集〈2〉 (1974年)

  • 出版社/メーカー:
  • メディア: -



ソクラテスとヘルもゲネス、クラテュロスが、「名前の正しさというものは、それぞれの有るものにたいして、本来本性的に[自然に]定まっている」かどうかを論じた作品。

今回再読なのだが、前回も感じたのだが、やはりあまり面白くない。

あるものに対して、名前がついているのだが、そもそも言語が違えば付いている名前も違うわけであって、それが本性的に定まっているのかどうかを論じること自体がナンセンスな気がするのだ。この辺の言葉の違いなどにも触れてい入るのだが、正直良くわからない。

議論は、ギリシア神話の神々に付けられた名前はそれぞれの神の特性を表しているかどうか、といった話になり、この名前はこの語源を持っているなどとなるのだが、ではその語源がそもそも何でそういう名前になったのか、ということには言及されない。これは「神の存在証明」であったり、「卵が先かにわとりが先か」とか『ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環』で論じられたものと同じで、結局は証明されようがないというか、議論の行き着く先がないものである。名前を付けるのは法律家である、といった話も出てくるのだがそれもよくわからない。

最後はイデア論的なことになっていくのだが、あまり成功しているとは思えない。

とてもchallengingなテーマを扱っているとは思うのだが、はっきり言って議論が空回りしてしまうテーマで面白くないと思う。

プラトンの中ではかなり残念な作品と言える。
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オリオン写真館 [文学 日本 安房直子 あ行]


見知らぬ町ふしぎな村 (安房直子コレクション)

見知らぬ町ふしぎな村 (安房直子コレクション)

  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2004/04/01
  • メディア: 単行本



この『安房直子コレクション2 見知らぬ町ふしぎな村』でしか読めない作品。

オリオン星座がさえざえとまたたく冬の晩、高い高い山で、生まれた猿のオリオン。
山での暮らしにあきあきし、人間の村へやってきて、ある写真館で見習いとして働くことに。
「そのうち、りっぱな写真師にしたててやるから・・・・・・」という主人の言葉を信じて3年間働くが、一度も写真機に触らせてもらえない。

おかしいと思ったオリオンは独立を決意し、主人から写真機を一台もらい、村へ繰り出す。
ちょうど小学校の入学式がある日で、たくさんの人から依頼を受け写真を撮る。夜、現像しようと写真機を開けてみると、なんと中にフィルムが入っていない・・・。

こまったオリオンはとなりまちへ逃げることを決意し、そこで新しいオリオン写真館を開く。
それなりに繁盛していたある日、夜遅くに女の子が写真を撮ってくださいとやってくる。
撮ってあげて現像すると星しか写っていない。しかも届け先もわからない。

結局オリオンは、星をさがし高い高い山を登っていき星を撮る写真家になる。

最後は、写真を撮ってものの現像してあげられなくて騙すような形になってしまった人々に、星の写真を送る。

自分の生まれ故郷に戻り、自分の過去を精算する、少し痛々しくも美しく優しい話。
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国際協力と平和を考える50話 [その他 本]


国際協力と平和を考える50話 (岩波ジュニア新書)

国際協力と平和を考える50話 (岩波ジュニア新書)

  • 作者: 森 英樹
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2004/02/20
  • メディア: 新書



仕事の関係で読んだ本。

2004年に出版された本で、扱われている題材が、2001年の「3.11」であったり、湾岸戦争であったり、小泉政権であったり、日本のPKO派遣問題であったり、と若干古くはあるのだが、そこに込められた思想や主張は全く古びておらず、逆にこういったものに通底する根本的な差別意識や日本の精神的な更新性のようなものが、20年近く経った今でも連綿と続いていることに恐ろしさを感じる。

世界的な国産問題
国連のありかた
日本の問題点
平和への道
が、それぞれ50話、うまく4ページにまとめられており非常に読みやすい本となっている。

岩波ジュニア新書、ということで、こうした良書を多くの中高生が読むことを望む。
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ナショナリズムの狭間から [学術書]


新版 ナショナリズムの狭間から: 「慰安婦」問題とフェミニズムの課題 (岩波現代文庫 学術 443)

新版 ナショナリズムの狭間から: 「慰安婦」問題とフェミニズムの課題 (岩波現代文庫 学術 443)

  • 作者: 山下 英愛
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2022/02/17
  • メディア: ペーパーバック



昨年の2月に岩波現代文庫から出版され、ずっと気になっていたのだが、硬い本を読むことから遠ざかっていて、こうした問題と向き合うのが億劫だったために買わずにいた。

昨年、何故だか覚えていないが、上野千鶴子の本を読みあさることになり、その流れでこの本を購入。上野千鶴子の本が一通り読み終わったのでこの本に取り掛かった。

作者は在日2世、というのだろうか。お父さんは朝鮮人、お母さんは日本人。
小学校は朝鮮学校、中学校からは日本の公立で過ごしたらしい。
韓国に留学し、「慰安婦」「挺身隊」問題に取り組み、活動を続けてきたひとのようだ。

自分の生い立ちから始まり、韓国留学中のフェミニズムや「慰安婦」問題の活動、日本に対する責任追及だけでなく、韓国における家父長制的伝統による、女性差別や蔑視の問題も取り上げており、「慰安婦」や「挺身隊」含め過去から現在における様々な女性をめぐる問題を、様々な観点から考え解決策を探ろうとしている本。

日本が韓国人慰安婦に問題解決として提示した「国民基金」の問題は、上野千鶴子も取り上げて詳しく論じており、上野千鶴子の日本側から見た問題点、山下英愛の韓国側から見た問題点、と二つの視点がわかって結構面白かった。

日本だけでなく、韓国の正差別的な、パワハラ・セクハラ状況も細かくわかり、結構勉強になる本だった。

p.191
「韓国であれ日本であれ、このように人を不当に差別し排除するあらゆるものに抗する立場(視点)に身を置き実践することが大切だと考えるようになったのである。私はその手がかりをフェミニズムから与えられたと思っている。」

p.194
「「慰安婦」問題が私たちに重要なのは、女性を兵士の性的慰み者にすることの問題性から発して、性的自己決定権を含めて、人権を尊重する社会を地球上にいかにつくってゆくのか、ということであろう。」

世界はかなり性差別を解消する方向へ向かっている。しかし日本は相変わらず、LGBT、夫婦別姓、税金の問題含め、いろいろな差別を解消しようとしない国家のままである。なんとか日本もより良い社会になり、皆が行きやすい社会へと変わっていって欲しいと切に祈る。
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