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注文の多い注文書 長編⑰ [文学 日本 小川洋子 長編]


注文の多い注文書 (ちくま文庫)

注文の多い注文書 (ちくま文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2019/06/11
  • メディア: 文庫



小川洋子さんと、クラフト・エヴィング商會なる人たちの共著。
小川洋子さんが、探しものをしている人物に関する物語を書き、それに対する返答をクラフト・エヴィング商會なる人たちが書いている。
小川洋子さんの、小説は普段と違うテイストで結構味があるし面白い。それぞれの物語は、実際にある小説をもとに作られており、その試みがまた面白い。

case1 人体欠視症治療薬
case2 バナナフィッシュの耳石
case3 貧乏な叔母さん
case4 肺に咲く睡蓮
case5 冥途の落丁

1は、川端康成の「たんぽぽ」という未完作品を基に作られた物語。恋人の体に触れてしまうと、その触った部分が見えなくなってしまうという病気に罹った女性の話。この病気を治す薬を探して欲しいとクラフト・エヴィング商會に依頼する。何となく初期の長編の傑作『密やかな結晶』を彷彿とさせる内容。結末があまりにも悲しい・・・・・・。小川洋子作品にはあまり見られない口調で語られているのが読んでいて何となく違和感があった。

2は、『ライ麦畑でつかまえて』を書いたサリンジャーの「バナナフィッシュにうってつけの日」を基に作られた物語。「サリンジャー読書クラブ」の会員がサリンジャー作品をいろいろ読み、裏にあるメッセージを読み解くうちに「イヤー・ストーンズ」なる言葉に行き着く。さらに色々探るうちにうなぎの「ジセキ」つまり「耳石」というものがあることを発見し、これをクラフト・エヴィング商會に探してくれるよう依頼する。結局最後は、クラブの内輪もめとなり・・・・・・。組織というもののよくある結末を描いた作品と言える。

3は、村上春樹の「貧乏な叔母さん」を下地にした作品。二人暮らしだった祖父を失ってしまい、悩み苦しむ青年のもとにやってきた背後霊のような叔母さん。彼が元気になるまではいてくれたが、少し元気になるとふっといなくなってしまった彼女を探して欲しいという依頼。
 時間を超えたタイムトラベル的な作品となっており、こういうものはイマイチ頭の整理がしきれない。しかしこの叔母さんかなり優しく、村上春樹作品が下地とは思えない。小川洋子さんの手によって相当優しくされたのだろうと想像される。

4は、ボリス・ヴィアンの「うたかたの日々」をベースにした作品。目の見えない指圧師と標本を扱う指圧師のお客さんと、指圧師のビルの下の階で古本屋を営む男性の心の交流を描いた作品。結構感動的な作品。

5は、内田百聞の「冥途」という作品を扱った作品で、この作品の初版の古書をめぐる作品。『ビブリア古書堂』シリーズに出てきそうなミステリアスな展開で結構面白かった。

普段の小川洋子作品には見られないような雰囲気や展開の作品もあり、面白かった。
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