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洋子さんの本棚 エッセイ⑩ [文学 日本 小川洋子 エッセイ]


洋子さんの本棚 (集英社文庫)

洋子さんの本棚 (集英社文庫)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2017/10/20
  • メディア: 文庫



作家の小川洋子さんと、エッセイストの平松洋子さんが、自分たちが読んできて影響を受けた本を語り合う対談集。女性というものを強く意識した対談になっているが、「ジェンダー」というよりは「セックス」の側面から語っている部分が多く、「産む性」として生まれた自分という存在をいろんな本を通して見つめ直し、客観的に語っているのがとても興味深かった。

旅が好きで外にどんどん出ていく平松洋子さん、旅が苦手で内にどんどんこもっていく小川洋子さん、まったく対照的に見える二人だが、内面では共通している部分が多いというのも非常に面白かった。

さらに、二人共友達と呼べる人が少なく、それでいいんだと言っている部分も共通しており、内面が充実している人に、それも内面が充実している人に多く見られる傾向だとも思う。

以下、印象に残った箇所を紹介したい。

p.40
平松「高度成長期にこれから突入していこうかという、その手前の時代。生活のすき間に、手間はかかるけれど余剰というか、余分なものがいっぱいあった。」

これは本当に感じる。自分は高度成長期に生きたことはないが、こんなにインターネットやSNS,携帯が広がる前、もっと穏やかで無駄なものを大切にする雰囲気があったと思う。

p.56
小川「こんなことをいうとみもふたもないですけれど、とにかくこの思春期を乗り越えて、大人になるって大変なことですね。よくそんなことを自分が出来たなと(笑)。あの時間をもう一回やり直せと言われても無理だと思う。」

私もそう思う。よく「戻れるならいつの時代に戻りたいですか」という質問を目にするが、私はどの時代にも決して戻りたくはない。楽しいことはあったかもしれないが、それはそれで辛いこともあったし、大変なこともあった。人生は常に辛いこと苦しいことを乗り越えていくことの連続で、その積み重ねで自分があるので、絶対にやり直したくない。

p.82
小川「私って馬鹿だなと。どんなことでも取り返しがつかないんだけれど、子育ては最も徹底的に取り返しがつかない。ですから、子どもとしての私も愚かだったけれど、親としての私も愚かだった。~中略~ 自分の後悔によって、過去の人々を許せるようになったということでしょうか。」

自分は子育て真っ只中だが、まだこの感覚はわからない。

p.163
平松「小川さんは別れたあとで宿題を抱えているみたいなこと、ありますか。」
小川「私は半ば無理矢理、過去は完全だと思うようにしています。」
平松「おお、完全という言葉が出ましたか。」
小川「どんな失敗も、どんな愚かな行いも、過去は、それはそういうものだったんだと。~」
平松「~私がいつも思うようにしているのは、過去は必然だったのだと。自分がいまここにこうあるのは、やっぱいあの過去があったから、と。」

私はここまでの境地には達せないが、いまこうしてあるのはあの過去があったからとは思う。

p.176
平松「もちろんちょっと仕事や家事がしんどいときは誰にでもあると思うんですけど、それをスランプという言葉で表現してみても何も始まらないということを女の人たちはよく知っているのではないかしら。」
小川「毎日同じことを繰り返すのは実は幸せなこと。」

これはとっても共感するのだが、「女の人」に限ったことではないと私は思ってしまう。

とっても良い対談集だった。
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