SSブログ

灰色の魂 [文学 フランス]


灰色の魂

灰色の魂

  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2004/10/22
  • メディア: 単行本



フィリップ・クローデルという作家をはじめて知ったのは、作家小川洋子さんがパーソナリティをつとめるTokyo FMの「メロディアス・ライブラリ」という番組だった。ここで紹介された『リンさんの小さな子』があまりに素晴らしく、それを読んで以来、ずっと気になっていた作家だった。

今回何故だか覚えていないが、彼への興味が再燃し、絶版になっている彼の諸作品を全部購入してしまった。

そして初めに読んだのがこの本、『灰色の魂』。

まず語り手の「私」が誰なのか、なかなかわからない。そして様々な登場人物が少しずつ紹介されていくのだが、それぞれがどこかミステリアスで、心に傷を持った感じで、しかも一直線に時間が進んでいくわけではなく、現在(語り手が語る現在)と過去を行ったり来たりしながら話は進んでいくので、中々全体像が掴みづらい。

第一次世界大戦時の話で、戦争で負傷した兵士や、戦地に向かう兵士が町に現れることはあるが、直接的に物語のストーリーに関係あるわけではない。

〈昼顔〉と呼ばれる町の酒場(食事処?)の十歳くらいの娘が、川べりで殺害される。
さらに、リジア・ヴェラレーヌと言う、町の外からやってきた皆から人気の美しい女教師がある日自殺する。
その二つの事件に深く関わっていそうなのが、この町の名士で、検察官のデスティナ。彼は昔非常に美しい妻を病気でなくしており、妻が亡くなって以来、一人で孤独に静かに暮らしている。
さらに、語り手「私」の妻クレマンスも、出産時になくなってしまう。

この4つの死、いくつかは奇怪な死をめぐって物語は進んでいく。事の真相に近づきそうで近づかない、そして人の心の闇みたいな部分が少しずつ顕になっていく物語で、一般受けしないだろうが、何かじわっと感じるものがある。

派手な作品でもないし、涙あふれる感動的な作品ではないが、何となく心に残る、そして何度でも読み返したくなる類の作品であることは間違いない。
nice!(0)  コメント(0)