SSブログ

不時着する流星たち 短編⑬ [文学 日本 小川洋子 短編]


不時着する流星たち (角川文庫)

不時着する流星たち (角川文庫)

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/06/14
  • メディア: Kindle版



不時着する流星たち

01. 誘拐の女王
02. 散歩同盟会長への手紙
03. カタツムリの結婚式
04. 臨時実験補助員
05. 測量
06. 手違い
07. 肉詰めピーマンとマットレス
08. 若草クラブ
09. さあ、いい子だ、おいで
10. 十三人きょうだい

ある作家やアーティストの作品などにインスパイアされて作られた10の物語集。

01. ヘンリー・ダーガーという作家の『非現実の王国で』という作品を元に作られた作品。ある日、主人公の女の子と、母が再婚した相手の男の娘が同居することになる。その娘は主人公の女の子よりもかなり年が上で、母親との方が、歳が近いくらい離れている。あまり親しくすることもなく生活していたが、ある日「誘拐されて小屋に閉じ込められていた」と言われる。その後彼女が誘拐されていた時の話を色々と聞かされるのだが、話をされた夜は、決まって姉の部屋から色々な人の大きな声が聞こえてくる。実は、彼女は色々な人になってその声を発しているのであって、素の声の彼女はひたすら謝っている。結局母と再婚相手は離婚し、姉は去っていくのだが、彼女との唯一の思い出、ラクロスのラケットだけは大事に取ってある。
 何かのトラウマを抱えた人を物語したものなのか、結構怖い話だった。

02. ローベルト・ヴァルザーというスイスの作家をベースにした作品。散歩が趣味の男性の話。小説を書くのが好きで、小説家になろうとしたがあきらめ、出版社の配送業務をしている。綺麗に包装し配送することに誇りを持って働いている。そこで出会った喫茶店の女性とひと時心を通わす。結局最後は主人公が病にかかり病院に入る。
 これも恐らく精神に関する病気であろうことが、想像される。

03. パトリシア・ハイスミスという人をベースにした作品。主人公の女の子は、大勢の中で実は生きづらさを感じている。そして同じような思いを抱えている人を探している。彼女はおそらくいじめにもあっている。そんな彼女は家族とたまにいく空港への旅行を楽しみにしている。旅行のために空港へ行くのではなく、空港へ行くために、空港へ旅行へ行くのだ。空港で弟と一緒に飛行機を眺めていたのだが、ある日、礼拝堂と授乳室の前で、かたつむりの競争をさせている男と出会う。その出会いによって何となく自分と同じ空気を持った人を見つけ出すことが出来る。
 とても共感できる息苦しさを感じでいる人の物語。

04.
社会心理学者スタンレー・ミルグラムによって開発された実験を元にした作品。落ちている手紙を、どれくらいの人が差出人に届けてくれるか、という社会・心理実験のために、手紙を落とすアルバイトを引き受けた女性が主人公の話。彼女は、生後一年に満たない子どもを持つ母親とコンビを組んで手紙を落とすバイトを行う。途中で、搾乳する話や、コンビの女性がそのバイトを辞めた後、主人公がその女性宅に遊びに行く場面など、結構生々しいものが多い。

05.
ピアニスト、グレン・グールドを元にした作品らしいが、他作品と違い、どの辺がグレン・グールドからインスパイアされたのかイマイチ私には分からなかった。目が見えなくなってしまった祖父のために、孫が歩数を一緒に数えてあげる話。祖父は昔とてもお金持ちだったらしく、今住んでいる所を超えた周囲一帯が塩田で自分の家の所有物だったと孫に語り、かつてあった色々なものの場所へ、孫と歩数を数えながら歩き回る。そんな中段々と祖父も衰えていき歩ける距離も短くなっていき・・・。

06.
生涯の大半を、ナニー(乳母)として送りながら膨大な写真を撮った人を元に作られたものらしい。葬儀の際、死者をあの世へ平和に送るためには、小さな子供が必要だ、と考える人のために、「見送り幼児」としての役割を果たす一家の話。現実味のない話だが、何故か現実感がある不思議な柔らかい雰囲気の話。

07.
バルセロナオリンピック男子バレーボールアメリカ代表を元に作られたらしいが、ほぼ彼らは出てこない。事故で片耳が聞こえなくなってしまった息子R。彼はどこかの国に留学しており、主人公である母親が彼のもとを訪ね、彼の好物である肉詰めピーマンを作ってあげる話。眠かったせいもあるがあまり心に響かなかった。

08.
映画『若草物語』に出演したエリザベス・テイラーを元にした作品。『若草物語』を学校で演じた4人の女の子が登場人物。主人公は、台本を作った女の子。彼女は、目立たない四女のエミイ役をやらされるのだが、エリザベス・テイラーがその役を映画で演じていたと知り、彼女の自伝などを読み、彼女にどんどんはまっていく。彼女が飼っていたシマリスまで飼おうとするが、高額で手に入らず代わりにハムスターを飼うことに。しかしこのハムスター〓が悲劇を招くことに。
かなり面白い一編だった。

09.
世界最長のホットドッグをもとにしたストーリー。子どもがいない夫婦が、文鳥を飼うことに。二人で『愛玩動物専門店』に行く。そこで対応してくれた店員のお兄さんに、妻はほのかな恋心のような気持ちを抱いてしまう。家にやってきた文鳥は初めは妻にも夫にも可愛がられていたのだが・・・。朝早くから鳴いたり、爪が伸びすぎてしまって枝にうまくとまれなかったりと段々と文鳥から気持ちが離れていく。それと反比例するように、妻は『愛玩動物専門店』のお兄さんに惹かれていく。そのお兄さんを店に探しに行った帰り、広場で世界一長いホットドッグを作ろうとしているイベントに出くわす。そんなざわざわした中、主人公の妻が最後に意味のわからない行動を取る・・・。

10.
13人兄弟の父親を持つ女の子が主人公の物語。父親の末の弟、サー叔父さんと主人公の心の交流を描いた物語。

全体的にあまり心響く物語は少なく、もう一歩な感じの短編集だった。


nice!(0)  コメント(0) 

アルペジョーネとピアノのためのソナタ D.821 [シューベルト 室内楽曲]


シューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」/アルペジオーネ・ソナタ

シューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」/アルペジオーネ・ソナタ

  • アーティスト: ヨーヨー・マ
  • 出版社/メーカー: SMJ(SME)(M)
  • 発売日: 2008/11/19
  • メディア: CD



第一楽章
★★★★★★★★★☆
チャイコフスキーをおもわせる、哀愁漂う寒々とした美しいメロディで始まる。第二主題の少し民族的なリズミカルな部分も格好良い。展開部(?)の長調に一瞬変わる愛らしい部分も悪くない。ロシア的哀愁と東欧的なリズミカルさを併せ持った美しい楽章。

第二楽章
★★★★★★★★★☆
ショパンのノクターンをおもわせる、夢見るような息の長い美しい旋律が、穏やかなピアノ伴奏の上で、チェロによって奏でられる。若干暗さを帯びてきたところで、そのまま第三楽章になだれ込む。

第三楽章
★★★★★★★★☆☆
最終楽章っぽくない、物事を達観したかのような、清々とした伸びやかな音楽となる。天上の音楽のような雰囲気の前奏部分が終わると、第一楽章のリズミカルな部分っぽい雰囲気が戻ってきて一気に盛り上がる。ロマ風音楽となり華やかに終わるのかと思いきや最後は、静かに終わる。

チャイコフスキー、ドヴォルザーク、ショパン、マーラーを合わせたような多面性を持った美しく楽しい曲。
nice!(0)  コメント(0) 

八重奏曲 D.803 [シューベルト 室内楽曲]


シューベルト:8重奏曲 / Wiener Oktett, 6.41555 AN

シューベルト:8重奏曲 / Wiener Oktett, 6.41555 AN

  • アーティスト: ウィーン八重奏団
  • 出版社/メーカー: Decca
  • メディア: LP Record



第一楽章 Adagio – Allegro – Più allegro
★★★★★☆☆☆☆☆
Fの音で力強く始まり、優しい序奏が続いた後、力強い主題となる。高貴で、時に牧歌的な感じもあり、聴きやすくはあるが面白みはあまりない。

第二楽章 Adagio
★★★★★★★★☆☆
「アヴェ・マリア」の伴奏のようなアルペジオっぽい弦の伴奏で始まり、これまた「アヴェ・マリア」のような息の長い美しい旋律が管楽器によって優しく奏でられる。その後伸びやかな、草原をイメージさせる壮大な雰囲気となる。再び「アヴェ・マリア」に似た旋律が流れ、少し悲しげな雰囲気となる。再び牧歌的な雰囲気となり、最後、コントラバスの「ボン、ボン」という面白い音が聞こえ、楽しげに終わる。

第三楽章 Allegro vivace – Trio – Allegro vivace
★★★★★★☆☆☆☆
快活な楽章。途中のミドルテンポの優雅な部分も綺麗。

第四楽章 Andante – Variations
★★★★★★★☆☆☆
優雅な踊りたくなるような主題を持った変奏楽章。非常に優雅な楽章。最後は子守歌のような優しく穏やかな曲調となり静かに終わる。

第五楽章  Allegretto – Trio – Allegretto – Coda
★★★★★★☆☆☆☆
優雅極まりないメヌエット楽章。中間部は少しゆったりとしたひなびた感じになるが、全体的に優雅。最後は静かに終わる。

第六楽章 Andante molto – Allegro – Andante molto – Allegro molto
★★★★★☆☆☆☆☆
いきなり嵐の前触れのような激しい前奏が流れる。劇的な音楽が最後に展開されるのかと思いきや、凄まじく高貴で優雅な音楽が流れる。後半ロマ風音楽となり、最後は多少ドラマティックに終わる。

悪くはないが、少し高貴な感じ漂いすぎていて普通すぎる。
nice!(0)  コメント(0)