ライオンのおやつ [文学 日本 小川糸]
ホスピスで最期の時を過ごすひとりの女性を描いた作品。基本的には一人称がたりで物語は進む。
天使のように良い性格を持った主人公で、実の両親と死に別れ、実の父ではない父が一人で育てた子ども。父の再婚を機にひとり暮らしになり、そのまま父に会うことなくホスピスで最期の時を迎えようとしている。
「死」という重いと思われているテーマを、「おやつ」という楽しく明るいものによって綺麗に味付けし、そして、「死」と「生」というものはそんなに明確に線引きできるものではないのだということを後半明確に描いている。ファンタジー的という人もいるかもしれないが、私は場合によっては死者と話ができると思うし、人が死んだ時に、遠くにいる人がその人の姿をぼやっと見て死を確信する、みたいなことも起こると思う。
この作品を重層的なものにしているのは、主人公が死んだ後の3日間をそれぞれ3人、別の人の視点で語らせているところだ。バッハの無伴奏チェロ組曲をところどころに登場させているところも味わい深い。
p.167
「私ね、死って、最大級のオーガズムみたいなものなんじゃないかと、期待しているんですよ」
p.268~p.269
「おやつは、体には必要のないものかもしれませんが、おやつがあることで、人生が豊かになるのは事実です。おやつは、心の栄養、人生へのご褒美だと思っています。」
この二つの言葉が、この重いテーマの作品を、明るく美しい作品に仕上げている、根本にある作者の考え方なのだろう。
「死」をテーマにしているが、読みながら泣くということがなかった。ものすごい感動作、素晴らしい作品、という感じではないが、なんとなくじわっと、ほっこりとする佳作。
叙情小曲集 [グリーグ]
01. アリエッタ Op.12-1
★★★★★★★★☆☆
静かな美しいアルペジオに乗って、可憐なメロディが流れる。曲集の初めにふさわしい美しい曲。
02. 子守歌 Op.38-1
★★★★★★★☆☆☆
懐かしい響きの穏やかな始まり。中間部は少し暗めの行進曲風の曲。情熱的に盛り上がった後、穏やかに戻って終わる。
03. 民謡 Op.38-2
★★★★★★★☆☆☆
低音の歩くような伴奏の元、少し暗く悲しげな旋律が静かに奏でられる。第二主題は少し明るく軽いメロディ。
04. 蝶々 Op.43-1
★★★★★★★☆☆☆
練習曲風の流れるようなテンポの速い曲。
05. 小鳥 Op.43-4
★★★★★★☆☆☆☆
すこし引いた感じの、小鳥たちが会話しているかのようなユーモラスな曲。
06. 愛の歌 Op.43-5
★★★★★★★☆☆☆
ゆったりとした静かに愛を語りかけるような始まり。だんだん感情が高まっていく。最後はしっとり終わる。
07. 春に寄す Op.43-6
★★★★★★★☆☆☆
鐘の音のようなシャンシャンした音が遠くから響いてくるような感じで始まる。左手が静かに大地の中から春の歓びを歌うかのような静かでゆったりとしたメロディを奏でる。途中産みの苦しみを味わうかのような苦しげで激しい音楽となるが、最後はしっとり終わる。
08. ワルツ Op.38-7
★★★★★★★☆☆☆
すこし悲しげな旋律の美しいワルツ。
09. 夜想曲 Op.54-4
★★★★★☆☆☆☆☆
結構淡々とした淡白なメロディで始まる。中間部は少しロマンティックになるが、最後は淡白に終わる。綺麗な曲ではある。
10. ハリング(ノルウェーの踊り) Op.47-4
★★★★★★★☆☆☆
エキゾチックなメロディの元気な曲。左手が鳴らす、鐘のような音がひたすらなっているのも良い。
11. 小人の行進 Op.54-3
★★★★★★★☆☆☆
元気な行進曲。結構格好良い。中間部は行進を一休みして談笑する様子を描いたかのような穏やかな雰囲気。最後は元気に終わる。
12. 故郷にて Op.43-3
★★★★★★★☆☆☆
静かな懐かしいメロディの穏やかな曲。心和む。
13. スケルツォ Op.54-4
★★★★★★☆☆☆☆
まさに「スケルツォ」という感じの諧謔的な感じで始まる。その後、少し暗めのゴツゴツした感じになり、少しゆったりとした牧歌的な雰囲気となる。諧謔的な感じに戻り終わる。
14. 小川 Op.62-4
★★★★★★☆☆☆☆
さらさらした少し暗めの雰囲気で始まる。
15. 子供の歌 Op.68-5
★★★★★★☆☆☆☆
若干神秘的な静かな曲。
16. トロルドハウゲンの婚礼の日 Op.65-6
★★★★★★★★☆☆
民族的な香りのする元気な曲。楽しげで明るい。途中の静かなロマンティックな場面もとても綺麗。
17. その昔 Op.71-1
★★★★★★☆☆☆☆
かなり内向的な悩みに満ちた始まり。昔の楽しい思い出が戻ってきたのか、中間部は明るく楽しげ。最後は悩みに満ちて終わる。
18. 郷愁 Op.57-6
★★★★★★☆☆☆☆
暗く静かに始まる。中間部は幻想的。最後は暗く重く終わる。
19. 思い出 Op.71-7
★★★★★★★★☆☆
アリエッタと同じメロディ。やっぱり美しい旋律。
仲道郁代が選曲しているからであろうが、かなり聴きやすく美しい曲が多い。