遠い野ばらの村 [文学 日本 安房直子 た行]
ある村に雑貨屋を開くおばあさんが住んでいて、遠い村にいる息子とその三人の孫の話を、色んな人にしていた。しかし、おばあさんはずっと独り身できたので、息子ましてや孫などいないことは皆知っていた。
空想の孫娘のために着物を縫っていたところ、小さな女の子がたずねてくる。父親が作った「野ばら堂のせっけん」を雑貨屋に置いて売ってくれないか、というのだ。快く引き受けたおばあさんは20個受け取ると、1週間後に取りに来るように伝える。せっけんは飛ぶように売れすぐに売り切れてしまった。
次の日に来る女の子におはぎを作ってあげようと、あずきを洗っていると、今度は男の子二人と女の子で約束の一日前にやって来る。まだあずきが固くておはぎは作れないと悩んでいると、女の子はおまじないをかけ柔らかくしてしまう。柔らかくなったもち米とあずきを似ておいしいおはぎを作り、三人に食べさせる。もう遅いから泊まっていきなといい、泊まらせたが次の日布団はもぬけの殻。布団にたぬきの毛が残っており、こどもはたぬきだったことがわかる。
三人の子どもはその後ずっと現れない。ある日野ばら堂のせっけんでシャボン玉を作っている子どもたちに出会い、おばあさんもシャボン玉をやらせてもらう。シャボン玉は風に運ばれ山の方へ。それをおばあさんは追いかけていく。
そこでこだぬき三匹に出会う。おばあさんとこだぬきたちは仲良く話をし、おばあさんは「また来るんだよ」と伝え、たぬきが用意してくれた提灯を持って家に帰っていく。
嘘をついたり、だましたり、というのは一般的は良くないのかもしれないが、心温まる嘘や騙しもある、ということを伝えてくれるほっこりする話。
天窓のある家 [文学 日本 安房直子 た行]
友人の別荘の山小屋風の建物に泊まったある男性の話。
その家には天窓がついていて、その天窓からは、多いなこぶしの木の枝がよく見える。
彼は悲しいことが重なり神経がまいっていて、それを見かねた友人がこの別荘を貸してくれた。
ぼんやり天窓から外を眺めていたところ、こぶしの木についていた花の影が布団の上で揺れた。その影を何とはなしに触ってみると、何と影が銀色に変化してしまう。さらにそれをつまみあげるとその花の影がつまめてしまった。あまりの驚きに「うわあ、お母さん、すごいよ。」と叫んでしまう。彼は3ヶ月ほど前に母を亡くしていた。
その後彼に不思議な声が聞こえるようになる。「かえして、かえして、影をかえして」という。見上げるとこぶしの木が天窓から見え、こぶしの木に「ねえ」と呼びかけてみる。すると、こぶしの木が言葉を話して答えてくれた。そして自分の影をかえしてくれ、と頼まれる。返すことを約束し会話は終わる。
しかし実際返すとなるともったいない気がしてしまい、結局それを持ったまま別荘から逃げ帰る。途中「かえして、かえして、影をかえして」という声にひたすら追われながら。
自分の家に戻り少し元気を取り戻し、お守りに花の影を首に下げてからはみるみる回復し仕事も順調に進み、結婚までし、子供にも恵まれ自分の家も持つ。
そんなある日、山小屋の持ち主に会い、こぶしの木が病気になってしまって、あの小屋を取り壊すことを耳にする。
こぶしの木が自分に生気を与えてくれてたことを知り、彼は申し訳ない気持ちでいっぱいになる・・・。
昔話的な、自然が人間に与えてくれる力を優しく物語で描いた作品。