死の国からのバトン [文学 日本 松谷みよ子 直樹とゆう子]
直樹とゆう子シリーズの第二巻。
今回は、直樹が主役。
お父さんの実家である日本海側にある阿陀野(あだの)へ、母とゆう子と遊びに行った直樹。
一面雪景色の中で、かつてそこに住んでいて今は死んでいる自分の先祖直七と会い、自分の先祖たちやその土地で生きていた人と交流する。
いっぽう現実の世界では、ネコがくるって暴れまわった末死んでしまったり、防腐剤を使用した豆腐を食べ過ぎて死んでしまった人が出たり、工場の垂れ流すものを餌にしていた魚を食べて死んでしまった人々などが続出する。
その二つの世界を行ったり来たりしながら様々なことを考える直樹。
松谷みよ子らしい、民話風の話もたくさん織り込まれるとともに、社会に対する批判もしっかりと組み込まれている。しかし、物語が若干入り組んでおり、筋を追いにくい。
死んだお父さんが、直樹に伝えた言葉が美しい。
p.328
「お父さんもお母さんも、二度と戦争をくりかえすまいということでは、同じ気持ちだった。そのためには、理不尽なものへしっかりと目を向けてたたかうことだと、そこでもおなじだった。そして、さまざまの運動にもくわわり、営々とはたらきつづけてきたつもりだった。」
p.329
「直樹、さあ、おまえにバトンタッチしたよ。しっかり走ってくれよ。お父さんができなかったことをしてくれよな。」
理不尽なことに対して声を上げ続けることの大切さをうったえかけるこの本。難しくはあるが、ぜひ多くの若い人に読んでもらいたい。
君たちは今が世界(すべて) [文学 日本 Modern]
中学入試の問題で多く取り上げられている作品らしい。
教育を扱っている作品ということもあり、図書館で借りて読んでみた。
小学校6年生、学級崩壊気味のクラスを様々な子供の視点から追った物語。
いじめではないが、いじめ一歩手前のような、気持ちが弱く、色々な能力が低い子どもにいろいろ悪いことをやらせるストーリーから始まる。
「人間タワー」もそうだったのだが、人間一人ひとりが持つ、内面の弱さ、大変なことが起こっている(起ころうとしている)のに、それを見てみないふりをして時がすぎていくのをひたすら待とうとする子どもたちの心の様子がとても丹念に描かれている。
結構家庭事情が大変な子どもが多く取り上げられており、読んでいて結構きつくなってしまうようなものも多い。しかし、最後の章で、そのクラスにいた引っ込み思案の子供が大人になり教員となり、子どもたちに語りかけるところが希望に満ちており結構読後感は良い。文庫版に収められた、クラスで唯一正義感を持っていろいろなことに立ち向かっていく、貧しい少女の話も勇気を与えてくれる。
色々と考えさせられる良著だった。