天国はまだ遠く [文学 日本 瀬尾まいこ]
文庫版あとがきによると、著者が丹後地方の中学校での勤務した経験から生まれた作品らしい。
自殺を決めた女性が森の奥地へ行きそこで自殺をしようとするものの失敗し、宿屋の若い男性や周りの暖かい人々、大自然の恵みを受けることで、心を回復し、後ろ向きながらも街の中で生きていく思いをしっかりと持って旅立つ話。
小川糸作品のような、美味しそうな素朴な食べ物がたくさん出てきてとてもよかった。
途中、キリスト教の教会へ行く場面が有り、主人公の女性と宿屋の男性が話す場面で
「別に教会だけやない。神社も奉ってるで。」
中略
「仏教徒であり、クリスチャンでしょ」
とあるのだが、神社は仏教徒は関係ないのでは?と思ってしまった。
著者もそうだが、出版社の校閲担当者等は気にならなかったのだろうか。
単行本から文庫本になる過程で直したりとかもなかったのだろうか。
まあいいや。とても心温まる話で、最後はお決まりの主人公の女性と宿屋の男性が結婚する、という形にならないのもよかった。
トランプの中の家 [文学 日本 安房直子 た行]
9歳の女の子は、3歳の妹あつ子を連れておばさんのところへケーキを持っていくよう母親に頼まれる。おばさんの家は森の道を抜けたところにある。
彼女たち一家は一週間前に森の家へ引っ越してきた。体の弱い妹のために自然の中で暮らすことを決めたという。
森に入って行っておばさんの家へ行った時のために「しばらくこちらにいますから、どうぞよろしくおねがいします」と挨拶の練習をしていたところ、「はいはい、こちらこそ」と後ろから言われ振り向いてみるとそこにはうさぎがいた。いろいろ話しているうちに、そのうさぎはトランプの中のお屋敷から出てきたことがわかる。
うさぎは変な歌を歌ってトランプの中へ消えてしまう。女の子も同じように歌うと妹を置いてトランプの世界へ入り込んでしまう。
妹を置いてトランプの世界へ入り込んでしまったので、急いで戻らなくては、と考え先ほどのうさぎを探す。不思議なお屋敷を探検し、ようやく森で会ったうさぎに出会う。うさぎはこのお屋敷の料理人だった。この料理人のうさぎには恋人がいて、その恋人はこの屋敷の娘さん。
この恋人のうさぎが、女の子が元いた森の世界へ行ってしまっていることに気がついた、女の子と料理人のうさぎは急いで戻る。
すると、トランプの世界へ戻るためのトランプを妹のあつ子が握っており、それを料理人のうさぎが取り返そうとする。色々ともみ合っているうちにトランプは破れてしまい、うさぎたちは帰れなくなってしまう。料理人のうさぎは困って泣き出すが、恋人の娘はあっさり、「この森で暮らしましょう」と言う。そしてこの森で料理屋さんをすることに決める。
女の子とあつ子もおばさんの家へ向かう。
ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』をもじったような、でも全く不条理感はなく心温まる話。
p.160
「森の木というのは、不思議なものね。人の心を、こんなにやさしくしてくれるんだから」
この言葉に、安房直子がこの話に詰め込みたかったことが凝縮されていると思う。