人間タワー [文学 日本 Modern]
中学入試の国語の問題で、最近使われることが多い作品らしい、ということをネットで知り、小学校の組体操における「やぐら」「人間タワー」の是非にも興味を持っていたので読んでみた。
直接的な学校関係者だけではなく、保護者・近くの老人ホーム・卒業生などのエピソードも入った結構重層的な作品。一人一人の人生が結構重く、読んでいて重量感がある。恩田陸や森絵都などのような色彩感はなく、けっこうべちゃっとした印象の作風ではある。
それぞれの語り手がそれぞれの立場から小学校で行われる伝統の「人間タワー」への思いを語っており、結構面白かった。
私は小さい頃から背が低く、体も軽いが、それなりに運動神経が良く、運動会の騎馬戦などでは常に上だったし、ピラミッドややぐらも、一度ピラミッドの2段目をやったことを除いて常に上だった。だからかもしれないが、組体操というものに結構良い印象を持っており、数年前この組体操の是非が色々と話題になったとき、確かに危険ではあるが、そこまで反対しなくても・・・という気持ちが結構あった。
最後は、色々な人がうまく納得できる結末であり、弱者に寄り添ったものであり、同じような形の朝井リョウの『桐島、部活やめるってよ』のような、上から目線のあざとい小説でなく、読後感もかなりすっきりとした前向きなものだった。
「人間タワー」と題されてはいるが、人間タワーを題材にしてそれぞれの人生の深い部分を抉っていく作品。
積極的にほか作品も読んでみようと思わせるような作家ではないが、他にも少し読んでみようとは思う。
夜のピクニック [文学 日本 恩田陸]
圧倒的な本だった。
とにかくひたすら歩いているだけ。しかもたった二日間の物語。
会話だけでこれだけ物語をふくらませ、さらに人間の感情を細やかに描き出し、そこにいない、遠くにいるアメリカの友人の存在も浮かび上がらせる。
ピアノのコンテストを描いた『蜜蜂と遠雷』も圧巻な作品だったが、この本も素晴らしかった。
登場人物たちの一人一人の性格も細かく設定されており、主役と言える4人以外の数名の登場人物たちもそれぞれが魅力を放っていた。
それぞれの人物たちが今後どういう人生を歩むのか、それぞれどのような恋愛をしていくのか、ということがとても気になる、そんな思いを抱かせ、爽快な読後感を残す素晴らしい作品だった。
修学旅行や様々な行事で、子どもたちはテレビを観たり、カードゲームをして時間を潰すのだが、そうしたことが一切必要なく、そうしたものが使えない状況こそが尊い時間なのだ、ということを教えてくれる素晴らしい作品。
是非多くの高校生に読んでもらいたい美しい物語だ。
Violin Sonata In F Major JS. 178 [シベリウス 室内楽曲]
The Sibelius Edition: Chamber Music, Vol. 2
- 出版社/メーカー: Bis
- 発売日: 2007/08/27
- メディア: CD
1. Allegro
★★★★★☆☆☆☆☆
ゆったりとした短いヴァイオリン・ソロで始まり、ピアノとヴァイオリンが美しい草原をイメージさせる第一主題を奏でる。すこし物悲しげな感じが交じる。第二主題は民謡風の静かなメロディ。
展開部は少し短調気味。伸びやかな感じではあるがさみしげ。途中すこし情熱的なピアノとヴァイオリンのやりとりがある。最後は優雅に終わる。
少し散漫で冗長な感じ。
2. Andante
★★★★★★☆☆☆☆
ハープの音を模したようなピアノの下降していくアルペジオ?の伴奏で始まり、民謡風の哀愁漂うメロディがヴァイオリンによって奏される。その後少し落ち着いてこちらも民謡風の優しいメロディが穏やかに奏される。その後元気になり、ピアノの和音の連続による伴奏のもと、ヴァイオリンが伸びやかにメロディを奏でる。情熱的でエキゾチックな雰囲気になった後、再び元気に明るくなる。最後は少し悲しげに終わる。
雰囲気のコロコロ変わる緩徐楽章?
3. Vivace
★★★★☆☆☆☆☆☆
エキゾチックな雰囲気のスピード感のある曲。リズムが取りにくい。こちらも様々なメロディが登場する。
全体的に散漫な印象の曲。
Violin Sonata 提示部 In A Minor JS. 26 [シベリウス 室内楽曲]
The Sibelius Edition: Chamber Music, Vol. 2
- 出版社/メーカー: Bis
- 発売日: 2007/08/27
- メディア: CD
1. Allegro
★★★★★★☆☆☆☆
ドラマティックなピアノ伴奏の後、そのままドラマティックなヴァイオリンソロが続く。第二主題は優美で穏やかな雰囲気。再び第一主題に戻りドラマティックになる。悪くはない。完璧な曲として聴きたいくらい魅力的な楽想ではある。
月へ行くはしご [文学 日本 安房直子 た行]
誕生日に、おばあちゃんにうさぎさんをもらったけい子。おばあちゃんに、満月の夜はうさぎは月にのぼっていってしまうから気をつけるよう言われる。
秋の満月の夜、おばあちゃんの言ったとおりうさぎは窓から逃げて月へ向かっていた。それを追いかけるけい子。コスモスの花たちに、銀のはしごでうさぎが月へ登っているのを教えてもらい、銀のはしごのところへ向かい登っていく。
途中、「パーン」という音がなり、登っていたはずのうさぎたちが消える。振り返ると、銃を手にした猟師の男がウサギを手に持っている。話を聞くと「うさぎ鍋」を作るためのうさぎを取っているとのこと。猟師には二人の娘がおり、二人に一羽ずつうさぎを食べさせたいのでもう一羽必要とのこと。違う場所で、鍋を調理している二人の娘にも合う。
このままでは自分のうさぎを殺されてしまうと思い必死で自分のうさぎを探すけい子。そこへ、黄色い月見草の花たちが話しかけ、「自分たちを摘んでハンカチでもんで、黄色いハンカチにして、それをうさぎの目にかぶせ目隠しすれば大丈夫」という。
はじめは躊躇したけい子だが、月見草の花たちに強く促され実行する。無事自分のうさぎを捕まえ家に連れ帰る。
人間は自然と共に生き、自然の恵みをいただきながら生きていることを優しく知らせてくれる本。地味だが良本だと言える。